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2008.05.06

「ベストセラー読者」と図書館

 ムムリクさん、貴重なコメントありがとうございました。
 いろいろ考えて、長くなったので、エントリーに起こします。

それ以外の小説の「赤毛のアン」のシリーズなどの予約はほとんどなくてすぐ借りられる状態だったという理解でよろしいですか?

 そうです。
 「赤毛のアン」で検索した結果と、「松本侑子」で検索した結果と。

 前回の記事に追加しないといけません。
 上の検索結果を個々に詳しく見てみると、予約が簡単に入れられたのは、そこそこ複本があったから。自治体全体で中央館・分館をひとつのデータベースとしていて、という前提ですけど。
 複本「貸出中」ステータス=利用者はそれなりにいた。それも、アンには訳書・関連本がたくさんありますが、複本がないものについても、割と出てました。
 しかし、「予約に溢れるほどではなかった」。このことはやはり間違いない、です。
 図書館側からすれば「ニーズが蔵書構成に合致している」のかもしれませんが、「これだけ瞬間風速が高いときに(自治体全体で)これかい!?」
 複本を含む蔵書構成で吸収できてるってことはある意味、アンに偏っているのか(笑)…、図書館の蔵書冊数(複本)でオーバーフロウしない程度のニーズしか、当自治体市民にはないのか。
 ちなみに前回の記事に「以前から」と書いておきましたが、アンだけじゃないんですよね。


 「ベストセラー読者」論となると、なかなか。

かつての書店員時代の感覚から言っても、多くのベストセラー読者というのは、話題だから読んでいるというだけで、そこから発展してその著者の他の著作や、同じテーマの他の書籍を読むという例は極めて少ないという傾向はあるように思います。

恐らく、本当の意味で読書が好きという人の絶対数よりも、本に限らずあらゆる面で流行に乗っかっていたいという絶対多数の一般人の行動がその理由なのではないかなと思ったりします(衣食住もろもろ。とりあえず体験したぞという満足感)。

 読者像としては、いろいろあっていい・ありうるひとつの類型だと思うんですよね。
 ただそれが、最近図書館業界で叩かれまくっている「図書館=貸本屋」論に対応している読者であることは間違いない。
 そして、残念ながら、彼らのニーズを満足させるには、「図書館」の機能である必要は、ない。
 「ベストセラー読者」の多くは、図書館を利用していないでしょう。彼らは本を購入できます。購入します。おそらくそうした読者のお陰で、この国の出版・流通は維持されてきた。
 そうした「ベストセラー読者」の一部が図書館に流れてきているにすぎない。

 図書館は読書のための一つの選択肢に過ぎません。そのことは読者として自分でもわかっています。
 しかし、図書館だからこそ・図書館ならでは実現できる機能があるから、自分は図書館を使っている。「図書館も」使っているという表現の方が正確かな。

 図書館に社会的に、蔵書として累積してあるからこそ、検索ができ、読むことが容易で。
 「考える」ためには、こうした図書館の「調べる」ための機能が必要です。「複数の資料に当たる」という。
 群として当たる必要がなく、個々のモノを入手したいのであれば、別にエネルギーが要る。お金も。これは長じた今となっては、図書館とは別のところで実現しています。

いろいろ理由はあるのかもしれませんが、そもそもが好きじゃないからとか、そうでなくても出版点数が多すぎて誰もすべてを網羅できるわけもないという諦めとか、まあ本当にいろいろなのかなと想像しないわけではないですね。

 ある関心に、できるだけ広く・多面的な視点で(可能なら網羅的に)アプローチする。
 ベストセラー読みではなく、そんな読書。文献調査。
 図書館がなくなったら、困る。
 そうした読書や、読者が育っていないから、図書館は支持されないのだろうなと思う。
 それでも、図書館を含む文献世界の機能は、どんどん便利になっています。それでも、読者は―。



#ちなみにわたしは村岡さんの訳の時代ですが、アンはすべて読みました。新訳にも興味はあるのですが、まだ手をつけていません。

 新訳、改めて興味深いですね。松本侑子訳に限らず、いろんな訳がありますが、特に今回は。
 ベアリング・グールドの『注釈付シャーロック・ホームズ』という本が子どもの頃の憧れでしたが、ハイパーカード時代に『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』にも同じグールドが注釈を付けた版があることを知りました。注釈があるってことは、それだけ、文献世界の広がりや、解釈の前提や豊かさがあるってことです(注に挙げられた文献を読みたいと言ってきてくれるお客さんは、私は、とてもとても嬉しく思います。でも、該当箇所のコピー(典拠)を持ってきてくれたら早いのに、と思うことは頻繁にあります。これは、どのレベルの研究者でも同じなんだよなあ…。そこで簡単なガイダンスを始めると、カウンターの手が足りないですから、同僚の目がうるさくて…)。
 だから私も、松本版、ぜひ読んでみたいと思っています。ありがたいことに文庫版ですし、たぶん買うと思います。図書館で読んでから。きっと、予約が満杯で、年単位で先になるでしょうが、それまで松本侑子さんの関連著作を読んでいるだけで時間が経ってしまうでしょう。

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Comments

うーむ。読み応え満点ですね。
なにやら今ではいろいろの方の翻訳がでているのですね。すっかり浦島効果です。(最後で書かれているのは「松本版」の誤りですね?)

Posted by: ムムリク | 2008.05.06 at 11:21

コメントを受けて、ついでにずいぶん加筆修正を加えました。

アンの訳がいろいろ出ていることについては、私も今回の検索で初めて知りました。
ホームズの翻訳の、近年の豊穣さについては言を俟たないところでして(日暮正通訳が完結したと思ったら、深町真理子さんが挑戦されるそうで)。
ホームズファンは一定部数が確保できる顧客層として狙い打たれています。
ガンダムと同じです(笑)。

Posted by: roe | 2008.05.06 at 12:31

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