« 感想:マクロード『表現の自由vs知的財産権』読みかけにて。 | Main | 感想:ロフティング『ガブガブの本』 »

2006.03.06

恩師の定年退官

 先週、今年度でB教授が定年退官を迎えるというので、最終講義、祝賀会、日付が変わっても痛飲(笑)。
 前日日中に、長岡の、自分にとっては"いつものお店"の酒販店さんに電話。酒2本を学部の教務留で送った。
 「久保田碧寿」と「呼友」。学生時代にもたぶん、先生と飲んでいたはずの酒。
 しかしまさか、花束贈呈の場で一緒に酒を贈呈させられるとは。光栄ではあったのだが、目を白黒させてしまった。

 初めて知った。B先生、自分が生まれた年度に着任。ということは在職年が自分の年齢と同じ。
 三十数年。意外に短いと思った。先生は別の大学に呼ばれていて、まだ退くというわけではないのだが。
 自分の職歴がどうなるだろう、ということは何度も考えた。何年があるのか。
 学者の世界で、三十年余で、何ができるだろう。

 今回は、さすがに奥様もご一緒に、キャンパスまでおいでだった。よく学生はご自宅に招いていただいて、奥様のおもてなしをうけたものだった。
 自分のことを、「変わってないわねえ」。中年に入った自分としては、喜んでいい言葉ではないが、憶えていてくださっただけで、嬉しかった。
 学生のときにお邪魔した折、先生がご家族でエディンバラに旅行に行った写真を見せていただいたことを思い出す。エディンバラはコナン・ドイル所縁の地だ。

 先生は腰の低い方で、持ち上げてもくださる。
 昔、図書館の世界に足を踏み入れることを決めた自分にくださった言葉をまた、自分を弁護士や研究者になっている先輩後輩の前で紹介くださる中でおっしゃる。
 「君は大学院に来ると思っていたのに、もったいない」。今回は「今からだって」とまで続いた。
 自分にそんな才がないことはわかっている。褒めてくださるのは嬉しい。こんなところに書いてしまうのだからバカである。リップサービスでもB先生にそう言っていただいたということ、自分が自分に誇れるいくつかの、ささやかなひとつ。

 このブログで以前登場した、実に優秀な後輩ともひさしぶりに顔を合わせた。先生から訊くと、あのアレクシーが―あまり人を褒めることがないそうだ―、「自分よりも優秀だ、成果を残す」と評していたという。
 基礎法学は実定法学に比べて、何というのか、ある種変わった人材の縁が多い。まず二十数人の宴席に民間企業に勤めている人は一人だけ。
 自分が在籍時から政治思想史を担当されているウェーバー研究者が、B先生と縁があるとは知らなかった。また、いま自分が住んでいる地域の大学で、政治学を担当しているという先輩。彼は学部時代にB先生のゼミに参加していただけだったが、B先生の緻密な議論、社会哲学を議論した経験に、自分のルーツや、実際に役立った局面があると言う。
 先生がお辞めになったあとに残される、ある院生。基礎法学なんて就職も困難なのに、よくも学問の途に入ってきたと思う。彼は、公式の席上で感極まってしまっていたが、酒が進むにつれて、本当に優秀なところがにじみ出てきた。上記の優秀な後輩同様、今どきの学生とは違う、一種の先祖返り、特別変異なのかもしれない。学部を含め、数年しかやっていないのに、加藤新平やアメリカはもちろん、ヨーロッパの法哲学界百年くらいの論争を俯瞰できる才。研究者ではなく「学者」、そんな片鱗を覗かせる。

 ああ、これは。自分は、知り合いになった先輩の院生室にお邪魔させていただいたくらいでよかったのだ。憧れをもって。
 ほかの大学院、修士のレベルの安易さも聞き知っているが、自分の出身大学の大学院、研究室は違っていた。本当に優れたモノがある。ゴマカシなく、逸材が、コツコツと自らを磨いている。偏差値だとか、そんなことは関係ない。そんな環境だったのだ。

 今どきだなあと思ったが、最終講義はDVDに焼いて配付してくれるという。
 先生は毎回内容をプリントにして配付くださっていたが、学生時代は全部聴き逃すまいと最前列に構えてノートをとっていた。ノートは自分が3年と4年のときと、先輩からコピーさせてもらった3年分のファイルがある。
 あの懐かしい、もう一度聴きたいと思っていた講義。最終講義は絶対に参加しようと思っていた。在籍時の熱心さとは違い、残念ながら遅刻してしまったことを、着いてから悔やんだ。あの穏やかな語り口から伝わる「学問」。講義録では伝わらない"何か"である。DVD、ありがたい。

|

« 感想:マクロード『表現の自由vs知的財産権』読みかけにて。 | Main | 感想:ロフティング『ガブガブの本』 »

学問・資格」カテゴリの記事

日本酒」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 恩師の定年退官:

« 感想:マクロード『表現の自由vs知的財産権』読みかけにて。 | Main | 感想:ロフティング『ガブガブの本』 »