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2005.09.25

「南京図書大略奪」の件(2)

 この記事では、以下の同著者の論文2本を入手して主張の主旨を確認した(書物蔵では後者を参照している)。

金丸裕一「曲論の系譜を読む―南京事件期における図書掠奪問題の検証」『立命館言語文化研究』14(2),2002.9, p.123-138.
・同「戦時江南図書「掠奪説」誕生の歴史的背景」『歴史学研究』第790号,2004.7,p.25-32.

 これら論文2本によると、以下のことが読み取れる。

・「現代にあっても「日本からの文化的略奪」がそのまま放置されている」旨の言説が中国で流布・定着しつつある。それらへの実証的な反論を行う。
・主張の中心は、南京陥落・占領時に一挙に80万冊もの移送はできない。時期的な混同が見られる。
・戦時下中国における図書の流れは実証的に明らかにしていく必要がある。その流れの推定仮説あり。
・かといって、戦時中の掠奪や焚書を無視することは誤りである。著者も、研究上の出発点は「日本に残る中国蔵書印の残る図書が孕む事実を確かめたい」というところから、と繰り返している。
・戦時中における破壊、焚書についての記述には力点を置いておらず、ほとんどない。文化破壊については略奪に関するもののみ。

 論文そのものからではないが、次の自分の感想も付け加えておく。

・『諸君!』の論文は、上掲学術雑誌論文の焼き直しにしか読めなかった。すんません→金丸先生。
・書物奉行さんの指摘によれば、『諸君!』掲載論文は、編集部によると見られる標題の付け方に意図的な文脈のすりかえ(読者の誤読への誘導)があると思われる(←ここ大事!)。著者は『諸君!』掲載論文でも「80万冊を南京事件のときに一挙に略奪することは不可能」としか言っていない。上述、他の機会との混同がある、中国の学者の政治的な流言蜚語を許すべきではない、と言っているに過ぎないのであって、中国大陸全体で行われた図書略奪の事実そのものまで否定していない。事実を誇張することへの憤りには同意できる。
・詳しい事情を理解していない自分としてはむしろ、「戦時下に図書館員や学者が図書"略奪"に関わっていた」という事実が、実名入りで確認できた。「ああやっぱり…」という気分。書物奉行さんやobaさんのおっしゃるとおり、彼らの関わり方が"略奪"なのか、どう評価すべきかまだまだ検証が必要なのだろうけれども…。

 なんか、「焚書」と関係ない記事になってしまいました。オチが付かなくて、アップするのに躊躇していました。
 それだけ、「南京図書大略奪」ということばがひとり歩きしているというか、そこにばかり焦点が当たっている気がして、論文そのものや、自分の採り上げ方があまりよくはないのかもしれません。ほんと、書物奉行さん始め文献学、歴史研究の素養のある方には図書館史の沃野をどんどん埋めていってほしいなと思います。

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