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2005.08.15

「GHQ指定没収図書総目録」にこだわらざるをえない理由

 ところで、『GHQ指定没収図書総目録』になぜこだわるのか、まとめに入る前に自分の傍聴メモをきちんとあらためておく。

 「西尾幹二のインターネット日録」に口頭弁論の記録が掲載されているので、順に参照していってみる。
 下記西尾論文の前半部に、ほぼ同内容を収録しているからそちらで確認もできる。

 西尾幹二「知られざるGHQの「焚書」指令と現代の「焚書」」『正論』2005年9月号 p.48-58.

 口頭弁論は三点に分けて語っている。「日録」:最高裁口頭弁論(一)を参照。
 一点め。これは、わかりやすい。肯けるものがある。

 日本国民の一人として、日本国の公立の図書館から、理由説明もなく一括して廃棄された本のうちに、自著が含まれたことに、私は屈辱と怒りを覚えました。私の過去の全著作活動が公的機関から、理由もなく「差別」されたという感覚、私の人権が一方的に侵されたという強い認識をもったことをまず第一に告知しておかなくてはなりません。

 二点め。「集団の罪」Kollektivschuldの概念を紹介している。これは自分は、一種「差別-逆差別」の論理の中に同様のものを見ていたので、この恐怖感なり判断基準の問題点は理解できる。ここまでは判決の論理として採用したと考えても常識的であろう。

 …本件のような被害者の立場からいえば、「集団の罪」を被せられるのは恐ろしいことで、私の本は私がなにかに属しているかいないかで判断されるべきではありません。

 しかし記事中、この第二点に続く次の記述が、図書館員たる自分にとっては問題であった。太字は引用者による。

 当件にナチスまで持ち出しては大袈裟に思われるかもしれませんが、決してそうではありません。体制の犯罪、自由の扼殺(やくさつ)は小さな芽から始まるのです。
 図書館員の特定の思想をもったグループが団結して、しめし合わせて、歴史を消し去るということもあながちあり得ないことではないと思わせたのが本件であります。
 さて、そこで焚書とは何か、歴史の抹殺とは何か、という三点目のテーマに移ります。

 口頭弁論における自分のノートは、西尾氏が主張した三つの論点を連続してメモしてある。しかし、太字の部分はメモがない。その時点では違和感を感じながらも、どんな展開になるのか聴いていたのだと思う。彼の次の「焚書」の話とどうつながるかわかるわけがない。
 以下は自分のノートだが、第二点の終わりは次のようなメモになっていて、三点めにつながっている。

 …「集団の罪」は被害者-加害者の立場を転ずると視点が逆転するので単純ではない(詭弁になりうる)。しかし、被害者の立場を忘れてほしくはない。
 3.焚書とは何か。=歴史の抹殺である。ミラン・クンデラ「国民の記憶を失わせ、新しい文化を作ってしまえばいい」。
 […ラス・カサスのパンフレット、スペインの自虐史観による近代化の失敗…]
 S.21 GHQ…総目録 図書館における焚書の目録。よく知られていない。
 [数行の空白。「ほおお」なんてアホ面して聞いていたんだろう。]
 司書に、明確な犯意。
 「図書館員は危険だ。」

 ここで自分の西尾弁論のメモは終わっている(ノートは井沢弁論のメモに続く)。
 実は、この最後の部分のメモを取りながら、一緒に傍聴に行った知人と、「うわ、すごいことを言っている…」と顔を見合わせたのだ。双方から。おそらく正確には、上のカギでくくったような表現ではなかったのに違いない。しかし、かなりショックだったことは間違いない。その後も西尾氏の弁論は続いていたが、メモするよりも傾聴することを選んだことを記憶している。
 その結果、この第三点めの論理への違和感は増大することになった(そして、実際に『GHQ没収指定図書総目録』にあたるなどの調査行動に出たわけである)。
 西尾幹二氏の第三点めの論理は、次のようなものと捉えている。

○焚書=歴史の抹殺。
→日本でもGHQの指示で図書館が行った。かつて存在した図書の消滅。
→ところで現代でも、図書館の蔵書に対して、図書館員が「歴史の抹殺」を行うことは可能である。
→船橋西図書館の件では図書館(員)に一罰百戒を与えていただきたい。

 「西尾幹二のインターネット日録」管理人の「年長の長谷川」さまから、次のようなコメントをいただいているが、

>>神奈川県立図書館の戦時文庫のように、守る側に回った例もある。
>>船橋西の例をひき、「GHQの焚書」の歴史を引いたからといって、
>>「図書館員は危険だ!」という話にはならない。
>
>西尾先生は上記のような主張をなさってはいません。

 しかし、西尾氏は上掲論文の中で次のように書いている(p.52-53.)。

 連合国軍総司令部(GHQ)の焚書は、船橋西図書館の一件と質的にも、原理的にも関係がないと思う向きがあるかもしれないが、決してそうではない。土橋事件は全国の図書館で一斉に特定の書物が市民の目に触れぬように隠され、消されるという意図的な可能性につながる問題だと私は見ている。ある政治集団が陰で糸を引いて、例えば北朝鮮の秘密に関わる書物をいっさい除籍してしまう。あるいはこれとは逆の立場から、アカハタ関係の出版物を廃棄してもよいという思想をも引き起こしかねない。
 日本の軍事の歴史の本が現に国会図書館などからこっそり除去されている、もしくは数ページ切り取られているというケースを、私自身が実見している。私は「はぐらかし」を題に掲げたあの評論で、あえて次のように書いた。
 「被告の土橋氏の給与をかりに約五十万円とすると、十分の一の六カ月減俸の処分は、金額にして約三十万円である。彼女は確信犯である。公立図書館司書にはこの手の思想確信犯が少なくないと私は見ている。金額にしてこの程度の犠牲なら、簡単なので、一斉に図書館職員が全国規模で『歴史の抹殺』をやる可能性は十分にあるのである。
 一罰百戒、ここで今後の暴走を食い止めることが絶対に必要なのではないか。上訴審の良心と知性に訴える」

 図書館員を危険視していることは明白だろう。むしろ、図書館員を集団として見て、「集団の罪」を着せようとしているようにも見えるが。
 自分が「おかしい」と思って上記文中のカギ括弧内、「船橋西図書館焚書事件一審判決と『はぐらかし』の病理」を読んだのは口頭弁論のあとだったが、口頭弁論でもおそらく同等の内容を、明確に表明したかどうかは別として、第三点めの論理の内に意図はしていたはずである。かの文献を最高裁に証拠として提出したそうなのだから(上掲論文p.49.)。

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