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2005.06.29

ある図書館の使い方(8)―複写にまつわる二つのDouble Standard : 2

 もうひとつのダブルスタンダードとは、読者・利用者たる自分の対してのもの。
 「全冊複写」と「繰り返しの貸出」という選択肢の決定要因を、「偉そうに言い過ぎだ」ということだ。「全冊複写」にも理はないわけではない。

 複写を考える場合、コンビニで複写する手間、どれだけの金額になるかという要素が、実は考慮に入っている。その上で手間とそれだけの額を払いたくないと考えれば、「繰り返しの貸出」を選択する。
 (6)でうさんくさいとか言っていた、「経済的な判断」をしているのだ。これまた、利用者誰でもが考える選択ではないか。
 裏返せば、この「経済的な判断」の結果、「それでも複写したい」ともなれば「全冊複写」もするだろう。そこに著作権とか資料保存とかへの考慮があるとは、必ずしも言いがたい。

 また、図書館資料の私的複製による「全冊複写」の利点も、実はある。
 著作権についてのそれではなくて、共同利用の制度である図書館にとって。
 主として「入手できない資料」を前提としてきたが、図書館資料は「共有」にもとづく制限が付いてまわる。社会的所有と、個人所有に近づいていく私的な利用との間で、予約制度(共有を保障するしくみ)や資料保存(私的利用による毀損)が問題になる。
 しかし、社会的な所有物を究極に「私化」してしまう輩がいる。(4)でコメントいただいた匿名の図書館員の方が紹介するように、ルール違反で占有し続けたり。おそるべきは入手できないからと言って、果ては「切り取り」。半永久的どころか「本当に永久に」私のモノとする輩がいる。ニュースでもよく話題になっていることで、ご存知だろう。
 入手できない資料を、社会的に共同で利用し続けるために、「複写」技術はきわめて有効だ。複製物ではあっても、「私が所有する」ことができるのだから。「入手したい者」に対するリスク回避のためには、「全冊複写」も図書館は黙認しないわけにいかないのかもしれない。

 それでは、出版者が常にストックを用意しておけばいいかというと、そうしてくれればありがたいのだが、それは無理というもの。オンデマンド出版とか、難しいんでしょう?
 無理なのであれば、読者が「読む」ための「機会を確保する」という図書館の社会的機能を、出版流通市場は自らの限界を前提にした上で、調和的な関係を模索すべきだ。
 copyrightとは、著作者のまさに複製に対する権利だが、「読む」ために公けにしたものではないのか。実定法上保護されるべき「複製」の意味は、立法者意思上のそれから大きく離れている。そんなに「読まれたくない」のならば、公表しなければよろしい。あれこれ言うならば、制度を整備してから言いたまえ(図書館で全冊複写の許諾を取ることを案内することが如何に理不尽に感じられることか!)。だいたいにおいて、publish=公けにしたものについて、肝心のpublic=読み手を無視したことを言い過ぎる。
 書かれたものが公けにある。様々な読者が、ただただ手 にとって読む。読んで、考える。そんな自然なことについて、(受け手の表現の)「自由」だの(知る)「権利」だの言うことすら奇異に感じる。
 横浜市立図書館の「私的複製」のためのコピー機設置を、出版者が驚き、怒りの文章を寄せていたが、改めて読むとなんだか変だ。複写は「読み」のバリエーションであったり、「読む」前提となるパッケージが入手できない不自由に対する、読者側の当然の工夫の延長線上にある。

 図書館における「複写」や「貸出」という利用の問題は、「読む」という個人的な行為を、社会的な制度でどう約束事を作っていくか、ということだと思う。
 著作者が権利を振り回す前に、市場にないパッケージを存在させている以上、市場でだけ入手するという発想を第一の前提とすべきではない。そもそも「市場」で「購入」して「所有」するという発想自体が「近代」の所産でしかなくて、例えばこの記事のようなインターネット上の匿名のコンテンツはどうなるんだろうか?もちろん、著作権法上では人格権はあると言われるだろうし、「読み書き」のためのコストの問題もなくはないが。
 そこには「書き手」と「読み」しかない。ネットのような画面の中だけの世界と対比的に考えれば、「読む」ためのパッケージ、物理的な資料を、いかにして社会的に流通させ、共有していくかという観点が大切であると気づく。

 自分が、このシリーズで紹介し、告白した「ある使い方」は、飛躍や二枚舌もあったが、それでもそんなことを考えての「読者側の主張」がこもっている。

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