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2005.06.20

ある図書館の使い方(5)―かいつまんで言うと

 前回が特にわかりにくいので、補いつつ再論。6/21公開。

  • 自分の近隣の公立図書館には、開架の意義を見いだせない。蔵書構成が自治体の図書館ネットワーク全体でやっているらしいため。
  • 上記"閉架式"図書館の活用はもっぱら、ネットワーク化されたOPACと電話による予約である。

 本文中では述べなかったが、上記のような利用は書誌事項からのアクセスしか考えられていない。
 情報と出会うためにこそ有効な、「場としての図書館」が機能していない。即ち、次の観点が欠落している。「モノとしての本」の、人間にとっての多面的「情報源」としての意味。そのモノの集合体としての蔵書という、やはり複合的な「情報」としての意味。
 「蔵書構成」と「開架」は非常に重要な機能である。OPACは既知の書誌事項、点としての資料を求めるには便利だが、主題から調べるためには「目録」の機能、書誌事項だけでは充分とは言えない。物理的に手に取れる資料が、文脈をもって複数物理的に眼前にあることが、重要なのである。
 「場としての図書館」ということばには、本来の、より情報学的な意味を付与する必要がある。群としての蔵書の効用は、図書館であればこそ強力な機能を発揮する。それに対して、点としての資料要求は購入のような代替措置も考えられる。

  • 本を「借りる」という利用形態の意義は、「手許に置く」ことによる「読む機会・可能性の確保」にある。「読む」と同義ではない。
  • 「手許に置く」ことによる「読む機会・可能性の確保」という点でのみ、「借りる」と「買う」は類縁性がある。「買う」ことも「読む」と同義ではない。
  • 「借りる」ことは制約が伴うので、自己の所有物としてしまい読む自由を完全に確保する点で「買う」方が利便性は高い。どちらを選択するかの判断基準は人によって異なる。自分は入手できる本は購入する方が多い。
  • しかし、市場で入手できない資料は多い。自由市場がどこにでも誰にでも転がっているという議論は現実的ではない。図書館は、共有物ではあるが(であるからこそ)、組織化された資料の集約物として、資料の確保=利用機会・可能性の確保を社会的に保障している。端的に言うと、探す手間(コスト)が軽減される。本当に入手が困難な、一般の市場で入手できない資料について、この図書館の機会確保の保障効果は発揮される。
  • さらにしかしながら、共有物である以上、返却期限等の制約は免れ得ない。

  • ある利用者にとって、図書館でしか利用できない資料の「貸出」はどのようなサービスか。期限内に読了・利用が完了できない場合、読む機会の確保という観点からすれば、社会的制約のもと「繰り返し借りる」か、「複写する」しかない。
  • 複写は「借りる」「買う」の代替となるか、というと、「読み」という観点からすると必ずしも代替とならない。「開架」の項と同様、どの部分が必要であるかという判断は、意味、文献全体の文脈の解釈を伴う。
  • したがって、「複写」によって「買う」に近い読解の機会の確保を求めるとすれば、「全冊複写」という判断になる。
  • しかし、図書館資料の全冊複写は著作権法上の抜け道以外の何でもない。自分は重要視していないが、著作権を論ずる者が無視したり罪悪感をまったく感じなかったり、具体的な解決策・妥協案を考案しないのは理解に苦しむ。
  • そんなことよりも自分がより重要視するのは、共有物であるはずの資料が、複写をすることによって物理的な損壊を確実に招くという点である。認知型の「情報」モデルからすれば、各人の内心に生ずる意味解釈の前提となる記号を記した物理的資料が消失することは、非常に問題があると言わねばならない。

  • 自分が同じ本を繰り返し借りるのは、全冊複写に対する抵抗感からである。なるべく購入もするけれども。

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Comments

 roeさんこんにちは。この話題、興味深く読ませていただいています。

>共有物であるはずの資料が、複写をすることによって物理的な損壊を確実に招く

 これは具体的にはどういうことでしょうか?私に読み落としがあるかもしれませんが、よくわかりませんでした。

 一つ思いついたのは、コピーで当てられる光がインクを褪せさせ、紙を傷めてしまうこと。これは借りだしたときの痛み方とくらべてそれほど大きくは思えません。

 もう一つ思いついたのは、コピーの際に押し開いてコピー機に当てることによる綴じ部分(すみません、呼び方を思い出せません)の劣化。これは大きいかもしれませんが、一般に貸し出された書籍は利用者の手元でかなり手荒な保管がなされるといってよいということを考えると、どの程度の評価がなされるべきかよくわかりません。

 全冊複写の際の物理的損壊についてroeさんが念頭に置かれているのは、どんな事なのでしょう?

Posted by: 左近 | 2005.06.27 at 09:02

 左近さんこんばんは。読んでいただいて、ありがとうございます。
 イタタタタタ。論理的飛躍を突かれた。そう思いました。確かに、唐突で、どこにも具体的なことが書いてないです。
 で、ありがたいコメントだと思いました。理由は後述。

 まずはいただいたコメントに対して簡潔に回答を。

 自分が想定しているのは後者です。前者は蛍光灯の灯りですら永久保存を目的とした場合紙によくないという話すらあるようで、きりがありません。
 本を現在の通常のコンビニにあるような複写機で複写すると、必ず本のノドの部分が開いてしまう。これは新規受入本やこれまで利用されてこなかった本が、返却されてくると誰でもすぐにわかります。綴じが甘くなって、装丁が壊れてきてしまう。
 現在ではスキャナ部分が上にあって、普通に開いた状態で読み取ってコピーできる上向き複写機も出てきています。

 ただ、左近さんがおっしゃるような、「手荒な保管」との程度比較となると、客観的な回答をもっていません。
 ここに論理誘導的というかダブルスタンダードが自分にあることに気づかされました。

 これまでの論の展開の趣旨は、別記事にしてさっそく立てたいと思います。
 論理誘導的とは申しましたが、もちろん、ひとつ筋が通っていると思っているからなんで、改めて本来の視点で再々論します。文章が下手というか、まわりくどくてすみません。ことばを費やしてもうまく書けるかわかりませんが、自分の整理のためにもなるので、がんばってみます。
 但し、左近さんのご指摘の点については加味されていませんので、このご指摘についてはこちらのコメント欄で引き続き「ご追求」ください(笑)。

Posted by: roe | 2005.06.27 at 22:57

 roeさん、丁寧なお返事ありがとうございます。「後者」、つまり綴じ部分の劣化を念頭に置かれていたのですね。

 今ふと思ったのですが、図書を借りだした人による「手荒な保管」は、ある意味で保管者の良識に委ねられていて、必ずしも大幅に劣化するとは限らない。
 これに対して、全部複写の場合には、その作業過程においてたしかに物理的損壊は「必ず」免れない。
 この点でいえば、単純な貸し出しの方が優っていると思いました。

 統計的なデータとしては、結果的に「手荒な保管」による損傷の方が全部複写によるダメージよりも激しいと出るかもしれませんし、それはひょっとしたら防げないのかもしれません。おっしゃるようなスキャナのタイプの複写機が広まればますますその差は拡大するでしょう。
 ただ、制度として全部複写を予定するかどうかという理念的な面から考えれば、損傷の「差」は問題ではないのでしょうね。(話がずれてしまいますが、装丁を含めた物理的存在としての図書を実際に手元に置くことの重要性というのは、図書館の存在意義からしても今なお、いや今日においてこそ相当高い、と個人的には思っているので)(←かっこ内の文章、長っ)

 追加記事は今ざっと読ませていただいたのですが、これまでの記事も併せて読んでからもう一度読み直してまた自分の中で考えてみたいと思います。
 あ、かなり話飛びますが、複写権はまさに本来的意味でのcopyrightですね(ただ、copyrightにはある程度制約が許容されるべきということが高度情報化とともに見出された、と考えている点ではroeさんのお考えと似通っているかもしれません)。

Posted by: 左近 | 2005.06.28 at 19:26

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