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2005.04.08

図書館と「法と経済学」(5) : 「法と経済学」と図書館・蛇足

 さて、『著作権の法と経済学』の著者、林紘一郎先生に対する恨み節です。

 講演を聴く機会がありました。企画者の企画意図が表れた演題は、「法と経済学」から図書館の政策決定過程になんらかの貢献が得られないか、というものでしたが、先生は自説である著作権に関する提案ばかり。
 その上腹が立ったのは、質疑で明らかになったこと。慶應義塾大学法学部において楡周平氏の修士号取得の際、指導をされていたそうです。その折の話を紹介しながら、無邪気にも楡氏の話を鵜呑みにしていたのには呆れました。一館で何冊も複本を用意するのはけしからん、と。別にサラッと紹介されただけだったんですがね。
 しかし、複本問題が話題になって時間も経過し、図書館界と出版界とが共同で調査を行ってもいます。横浜市立図書館のように組織上一館とは言え分館を含み、かつ各館がカバーする人口がまったくほかの館と状況が違うことも適切な指摘と言えないことも明らかになりました。図書館界からも充分に複本批判に対する回答はできてきている、まったく批判に当たらないと考えている矢先に、これです。
 質疑の時間が押していたことと、本筋とまったく関係ない話題でしたので、突っ込むのはやめておきましたが、こうも頭にきたんだったら突っ込んどけばよかったのかなあ。

 「法と経済学」以前に、統計学の基本がまったくなっていない。「法と経済学」の方法を著作権に援用する以前の事実認識の段階で誤認があるようでは、法学博士、経済学博士の名が廃れるというものです。法学にせよ経済学にせよ、概念や理論の検討以前の段階での事実の理解がまずは学問の前提ですから。昨今の理論経済学に対する批判一般にしても、経済学の倫理が問題となる時代ですよ。
 まあ、学者というものはそんな程度のものなのだろうな、という見方もできるのですが。自分の知らない文献については、当人にとって事実とならないんですね。厚生経済学は、理論的側面が強い印象の学問ですから、「もう処置なし」です。
 先生の業績には期待しているだけに、個人としては非常に残念です。

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Comments

かつて林先生のゼミにいた者ですが、この講演がどこで行われたものなのか興味があります。

ちなみに、楡さんが修士を取ったのは、法学部ではなくSFCだったはずです。

Posted by: 鍋田 | 2005.04.09 at 22:42

 私の所属等々を明らかにしてしまいかねないのではっきりは申し上げられないのですが。まあ、推測はついてしまうでしょうね。
 林先生のようなビッグネームに些細なところでながら傷を付けるようなことを申し上げているのですから、こちらも多少のリスクを呑んで、お伝えできるところはお伝えしておこうと思います。
 お尋ねになりたいポイントがずれておりましたら、重ねてご質問ください。

 職場の、企画部門の調査のために、館内クローズドながら、部署によらず参加が許されたので、聴講しに行ったという形です。
 「調査」ですから、本来「講演」ではなかったし、企画者が事前に先生にお渡しもし参加者にも配布した質問項目は完全に「法と経済学」を政策決定過程に援用するとしたら…という内容でした。企画者自身は大いに期待もしていたようで(のちほど担当者と「残念だったね」と直接声を交わしております)、「講演」に使うような部屋を用意して、人を集め、実際ほとんど講演でした。
 ご当人は「調査」だという認識がなかったようです。「講演」の最後、質疑の直前になって、この資料に触れるというありさまでしたから。

 法学部とSFCの組織関係は未だに理解できておりませんので、大変申しわけありません。
 楡氏の件は、上記「講演」質疑の中で出てきました。
 林先生の口から、「慶應の修士は単に単位を取り論文を書けばいいというものではなくて実践の面もやっている。楡氏はSFCではシンポジウムを開いたりもして、よくやっていた」。そのような文脈でご自身が楡氏の指導に関わり、そこで知り得た図書館の複本問題についての感想を触れておられました。質疑の回答の中心は、複本問題であったし、楡氏の件はその前振りです。
 参加者は図書館員ばかりでしたから、少々鼻白んだ雰囲気が漂いましたが、ご当人は何も感じることがなかったようです。

 なお、SFCで行われた楡氏主催のシンポには私も参加し、ずいぶん偏ったシンポだなあという印象をもって帰りました。
 帰路バス停で、名和小太郎先生と面識を得ることができました(先生自身は私のことを覚えておいでではないと思いますが)。名和先生にはバスの中で延々話に付き合っていただきましたが、彼もシンポ全体としてはおかしな感想を抱かれたようでしたよ。

Posted by: roe | 2005.04.09 at 23:21

 検索で引っかかって立ち寄った者です。
 最近は法と経済学関連で仕事している研究者の端くれです。

 林先生についてですが、少なくとも私の認識では、彼は「着眼点」というか「流行物」への嗅覚は大変優れていると思いますが、分析を掘り下げて、実際に現実への適応を目指すタイプの研究者ではありません。
 この点、研究者というよりも(よく言えば)開拓者とみるべきだと思います。

 同じ研究者の端くれとして心苦しいのですが、現実に興味がないのに、政策的分野を専門としている研究者がいることは事実です。
 地道な研究・政策提言を行う研究者も沢山いるのですが、地道な研究はアウトプットが少ないためか、一般にはあまり有名にならないようです。

 外部の講演(林先生の調査?)にまで出かける方に誤解や諦観を抱かれるのは残念なことなので、余計なこととは知りつつ、一言述べさせて頂きました。
 ご無礼につき、ご海容賜れば幸いです。

Posted by: 通りすがり | 2005.05.02 at 15:44

 通りすがりさまは「法と経済学」の研究者でいらっしゃるのですね。
 コメントいただけて嬉しいです。林先生の件であれ。

 同僚には、林先生の業績にずいぶん大昔から注目していた者がおります。彼もまた、この調査という名の「意見聴取会」に参加していて、林先生の述べる主旨を的確に理解しているようでした。質疑応答での彼らのやりとりは非常に鋭く、とても興味深いものでしたよ。

 林先生ご自身については、確かにあのようなスタイルの研究者がいることは知っています。もちろんよくは知りませんが、今回見ていて、なんだか子どもみたいなんですよね。レッシグと仲いいんだぞ、とか。自分のアイデアになんでもひきつけて開陳したがるところとか。

 それだけに、出版界と図書館界が協力して行った下記貴重な調査には関心を払っていただきたかったのです。
 「公立図書館貸出実態調査2003報告書」(日本書籍出版協会HP)
 http://www.jbpa.or.jp/toshokan-kasidasi2003.pdf

 「法と経済学」に関しては、充分に勉強が足らずに勝手を述べさせていただいています。今後も、林先生を含め注目しないわけにいかないでしょう。
 また何かありますれば、ぜひコメントお願いいたします。

Posted by: roe | 2005.05.03 at 02:24

一度書き込んだ責任から舞い戻ってまいりました。
 勝手な書き込みにも関わらず、ご寛恕たまわり恐縮です。

 林先生を「子供みたい」とのことですが、全く否定しません。学者の世界では、稚気を隠せない(隠さない)人が多いことも事実です。

 ただ、林先生はもともと研究者ではなく、NTT出身のはず。なぜトラブル無く生きてこれたのかはナゾです。

 とにかく、「林先生の個人的特性の問題」ということは、私が書き込むまでもなく認識しておられたようで、重ね重ね大きなお世話をやいてしまいました。

 今後は時たまROMらせていただきたく、お願い申し上げます。

 では

Posted by: 通りすがり | 2005.05.04 at 00:58

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