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2005.04.05

確認・著作権法の基本(2) : 著作権って、人権なの?(続)

 しかし、ロックの時代状況における「property」概念が主張しようとする文脈と、20世紀における福祉国家における財産権は、まるで様相が違ってきています。

 第一に、憲法の歴史、伝統的な憲法の性格を辿ってみればわかりますが、近代憲法とは国民が国家権力にはめた枷です。国民と国家との関係における社会契約。つまり、こういうことになります。「国家は、国民の権利を保障する」としか言っていないのです。基本的に、国家と国民の間の関係。国家が国民の権利を尊重する、侵害しないとしか言っていないのです。
 何を言っていないか。国家が国民の権利を保障すると言ったとき、その第三者関係においていかなる形まで保障するかまでは言っていない。だから、憲法学では伝統的に「人権の第三者効」、国家が保障するという人権がほかの市民の権利や法人の利益との間で有効かどうか、議論してきたのです。

 第二に、現代においては、財産権の代表である(土地)所有権でさえ、制度的保障しか定めていません。つまり、こういうことです。

・ルールを定めるからその許でやりとりをしてくれ。
・また、「公共の福祉」による制限を加えるよ。

 これらによって、所有権の絶対性が相対化されたと言ってよいでしょう(すんません、20世紀型憲法への歴史的経緯は省略します)。

 以上の観点から、「著作権が人権である」と言ったとき、この言明には二つ問題があります。

・国家が著作権を保障する・尊重するという意味では言っていいが、人権だとすれば、国民相互の間でどのような取り決めをもって権利を使っていくかまでは憲法は想定していない。
・著作権は、人権とまでは言えない。制度保障としての財産権の一部をなすことは間違いないが、「人権としての財産権」自体が制度保障までしか考えていないから、著作権は財産権制度保障の範囲内の権利の一つでしかない。

 ちなみに、憲法が制度保障や抽象的な規範だけに逃げる法令かというと、それは違います。明白・直接に裁判規範としての性格を表す条項もあるし、実定法以外のなにものでもありません。裁判規範ともなり得ます。
 憲法がほかの法令と比べて特殊な点は、国民との社会契約をなして、国家権力の正当化論拠となり、国の最高法規として他の法令に妥当性を与えるという性格があるという点だけです。制度保障や抽象的規範はほかの法令にも出てくるものですし、下位の法令に授権することなどは法令には当たり前のことです。
 憲法典で定める権利は確かに、基本権として実定的にも重要性をもちます。しかし、いかに(概念としての)所有権が人権の中で端的な地位を占めているとはいえ、他の物権法上の権利を「人権である」などという主張は自分は聞いたことがありません。「著作権が人権である」という言明は、そのくらい、奇異なことだと思います。

 むしろ、このわけのわからない主張によって、消失しかねない視点が存在することを忘れてはなりません。
 著作権は、確かに人権であるかもしれません。でも、それは財産権―property―としての本来の意義において、です。つまり「人格」と結びついた部分があるということです。人としての権利、ロックが言いたかった「人間の精神は誰にも縛られることがない」自由な精神の問題と関係しているということです(これを言うとまた、著作権は精神的不可侵性にも連なるのだというバカな議論が出てきかねないのですが、そうではなくて、国家に規制されない人々の一般的自由に連なるのだと読むべきです)。
 著作権の人格との関係、著作者人格権がコアにあることを忘れて、著作者財産権の問題だけを論じているさまは、はっきり言って不様としかいいようがありません。
 また、人権=propertyとされていた概念自体が、時代の変容によって、その中核的精神的自由の観念から人権としての財産権の相対化を招いているということは絶対に無視してはなりません。

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Comments

著作権人権説の主な提唱者である岡本薫氏は、「著作権=人権」である根拠として、世界人権宣言において特許と並んで著作権が規定されていることを挙げています。(私がにらむところでは、著作権人権説という見解の着想は、この世界人権宣言の規定から得られたのではないかと)
世界人権宣言ではどうして著作権に関する規定が置かれてるんですかね?もしそのあたりのことをご存知でしたら、お教えいただけますとありがたき幸せです。

Posted by: cgms | 2005.04.05 at 07:18

 cgmsさんこんにちは。
 結論から申しまして、世界人権宣言の来歴までわかりません。実定的な権利としての国際法上の人権(ああややこしい)というものの位置づけ自体、私の手に余ります。いま手許に国際法の教科書がありませ〜ん!
 岡本薫『著作権の考え方』岩波新書ではそのあとの国際人権規約を承けた記述になっていました。改めて法律学辞典を引きましたが、世界人権宣言が道義的な効力しかないのに比べ、国際人権規約は条約としての実定的効力がありましたっけね。不勉強なのがばれます。
 cgmsさんのご指摘は、この抽象的「道義性」が私の原則論を述べた記事に関連性があると見てのものだったと考えるのは穿ちすぎでしょうか?

 ただ想像するに、手許の辞典の記述では、世界人権宣言は、生存権を中心とした文化的権利まで含めた総花的なものとなっていることから、ここで論じている憲法学のメタ理論的な議論とはかみ合わない可能性はあります。
 メタ理論の世界では、法の実定性そのものにとことんまで付き合うというのではなく、憲法の論拠や原理にこだわります。例えば、アマルティア・センは貧困にあえぐ故郷の状況から、自ら厚生経済学を突き詰めていった結果、平等の原理を社会倫理、正義の問題として訴えています。
 方法、アプローチが違うようなのです。お望みの回答ができなくてすみません。
 このシリーズ自体は「図書館は経済制度なの?」という話になってますので、できれば続けてお読みください。なお憲法学のメタ理論の観点からは、福祉政策を人権の問題として採り上げるにはまた面倒な問題を抱えることになるでしょう。世界人権宣言からは離れてしまうわけです。

 また、私のブログ自体の簡単なプロフィール(執筆姿勢)は2005.3.26の記事もご覧ください。
 今回のご意見は、ありがたく拝聴させていただきました。

Posted by: roe | 2005.04.06 at 01:23

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