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2005.03.15

生物学の「分類」、法学の「概念」、図書館学の「分類」

※2005.3.18、わかりやすくなるように手を入れました。文章の追加、修飾を付ける等。
※この記事は、2005.3.8付「「図書館学、情報学と法情報学」のその後」に関連する、話題を扱っています。

 前回の、高校時代の友人、生物学の研究者の話から。
 自然科学としての生物学の対象と、法学や図書館学の対象の話。
 生物学の「分類」、法学の「概念」、図書館学の「分類」について、それぞれ対応する対象を考察した。
 結論は、生物学の対象は人間の外にある自然だが、法学や図書館学の対象は、社会や、人間の中にある観念である。
 当たり前か。まあ、書いてみたので読んでみてください。

 まず、生物学の「分類」について。
 学生時代に、法学の「概念」、図書館学上の「分類」、生物学上の「分類」について彼と意見交換したことは非常に刺激的だった。このとき既に自分の念頭には吉田正幸氏、坂本賢三氏の著作があった(2005.2.22付「図書館学と情報学、法情報学(7) : 基礎情報学と情報の社会的認識」を参照)。
 当時、彼に聞いたところだと、生物学における「分類学」というのも、生物学の中でもなかなかに特異な領域らしい。
 生物学は生物そのものを対象とする学問である。人間がどう捉えようが、そこにその観察対象たる「自然」はある。それを人間が観察・理解していくのが生物学であり、普通の自然科学だろう。彼によればそれに対して、生物学における分類学は、(普通の)生物学じゃないと言う。考えてみればそうだ。
 既に観察し発見した、通常の生物学上の成果をベースに、人間の都合に合わせてある基準を立て、どの系統に入れるとよいだの、いやそれよりはこちらがよいだのとやっているわけだ。概念体系の構成上の問題以外の何でもない。
 実際、その当該の生物は、人間の思うような特徴をひとつだけもっているわけではなかったりして、人間の作る分類にきっちりと収まってくれるとは限らないのだそうだ。

 生物学の「分類」、法学の「概念」、図書館の「分類」。それぞれ対応する、「対象とするもの」は何か。その困難性を書いてみる。
 以下、法学と、図書館と続ける。法学について一生懸命書いているのは、少しでもご理解いただければと思ってのことですので、お許しください。

 ここから、法学の「概念」について。
 法学の「概念」も、概念構成上は体系をもっている。法令の構成がそうだし、上位概念があり、下位概念がある。
 実際の法的判断は、概念構成以前に、個別ケースに適切な判断が先行している場合が多いと言われている。ところが、規範命題上の概念がそのケースの利益等々を包摂した形をとって、あたかも概念論理的に導出されたように判決が書かれている。つまり三段論法、大前提=規範命題、小前提=認定事実、結論=判決のように導かれた「ことにする」わけだ。
 ところが本当はそうではない。それはなぜかと言うと…うーん、どう説明したらいいのかな、自分でもよくわかっていないようだが、たぶん日常言語としてわかりやすいからだと思う。大事なのは、真に論理的に概念導出的な判断がされているのではない、ということだ。おそらくこの領域は言語学の面目躍如たるところだろう。

 予備知識をここで注入しておくと、憲法を頂点とした制定法優位の法典編纂型の法体系は、「大陸法系」と呼ばれ、日本もこれに含まれる。明治期にドイツに範を採って以来のものだ。これに対して、判例法優位の法体系は「英米法系」と言われるが、英米法に制定法がないわけではない。
 大陸法に比べると法令の改廃など体系的ではないが、実際の法令に詳しい方に聞くと、どちらがいいかどうかという問題ではなくて長短あるそうだ。また前掲記事の青井秀夫氏の研究によれば「概念上の規範体系」はやはり双方に存在しており、よく「制定法主義」「判例法主義」と対極に置かれるほどに違いはないと言う。

 ここのところは青井説に則って説明しているのだが、個別ケースにおける判断がケースごとに行われると言っても、その判断を規範命題の概念に包摂した形にして、規範体系に則っておくことは、直観的に有意義であることはわかる。重要なメリットとしては、ひとつひとつの利益判断は別に独立別個になされているわけではなく、人間社会の諸側面を見た上での社会的な判断であって、個々の利益判断を体系化したものが「概念上の規範体系」だからだ。利益相互のバランスが、立法政策的にまた、司法経験的にそこに蓄積される。
 で、何が言いたいかというと、その概念構成の整序を付けるのが、通例は、法学界、法学者の共同体である。法学の「概念構成」は、生物学―自然を対象とした学問との対応関係を考えてみると、テキストの形になった制定法の体系の問題だけではなく、実は社会の実態、利益の配置をどう見るかという現場主義的な発想との狭間に接しているはずのものなのだ。しかし、ケース主義、利益社会学的な観点を消失した瞬間に、文献学的な単なる概念の調整に終わりかねない。
 法の概念体系に接すること、法概念の解釈学というものは、そもそもが困難である。司法判断の検討にあたって、いちいち人間社会の利益配置を社会学的に統計調査しているわけでもないし、人生経験や専門的な経験に豊富なわけでもない。仮にそれを実践したところで、それら社会調査などの科学的分析や経験がそのまま、司法的に適切な概念を構成するとは限らないのだ。
 どうしても、生物学上の分類ですら困難があるのだから、対象が社会的利益という目に見えないものであるだけに、規範概念の整序はさらに(研究者間の)文献学的な概念操作に堕してしまいかねないという弱点がある。観察対象が明確にある生物学以上に、さらなる困難は否めないと思うのだ。
 実際的には、体系に視線を配りながらケースにこだわる、これしかないだろう。法の世界では、社会的文脈を見すえた上での、個別ケースの解決こそが求められているのだから。

 ところで、図書館の「分類」体系は、どうか。
 まあ、これは言うまでもあるまい。法学以上に頭の中の「普遍的な世界把握の概念体系」以外の何だろうか。それが便宜的であることさえ忘れなければ、使えると思う。配架分類も利用の便を上げるためのもの以外のなにものでもあるまい。
 しかし、生物学の「分類」、法学の「概念構成」を経てきてみて、図書館の「分類」が指し示す「対象」が何なのか、と考えてみるとどうだろうか。
 もちろん、ひとつひとつの要素は文献資料なのだが…図書館の「分類」とは、概念体系以外の何でもないだろう。図書館の「分類」が「便宜的な」「普遍性」を目的とするならば、…正直、その便宜的な普遍性、網羅性だけが残らざるをえまい。何のためか。利用の便のため。それ以上でもそれ以下でもなく、その利用という名のもとにある「利益」については、まったくフリー、ノータッチである。便宜的な普遍性を求めるということは、体系全体としては無目的という選択をしたに近い。
 対象云々ではなく、図書館の「分類」にとって重要なのは、「利用の便のためにどれだけ有効な道具たりえるか」。そこだろう。例えば詳細な構成を作り上げるかとか、普遍性をもった世界把握の範囲を広くとるかとか、その中で要素のひとつひとつに付与する際は検索にかかりやすいような工夫をするとか、いずれも利用の便のためであって、概念構成それ自体に便宜的以上の意味はない。
 いずれにせよ、頭の中のことだ。いかんせん、普遍性とか一般性という目標自体が困難だろう。
 実務に携わってみると、(便宜的な普遍性を目的とした)体系を維持したまま、個別の概念の整序を付けるという作業自体は、やはり「すごいこと」だと思うのだが。

 まとめ。
 生物学の「分類」と、法学の「概念」と図書館学の「分類」は、体系性や人間の概念の問題で共通でありながら、異なる。結論は既に述べたとおりである。
 上記ではそれぞれの困難性を述べたが、困難性の度が増していくのは、結論に示した対象の「違い」故だろう。対象がどんどん人間の頭脳の外にあるモノから、抽象的・概念構成的になっていくから、「何のために、何をやっているのか」を意識していかないと、「いま、何をやっているのか」わからなくなっていってしまうのだ。

 図書館の分類、役に立ってますか?

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