冨原眞弓『ムーミン谷のひみつ』各章毎に付けられた紹介。
ムーミン家族 Muminfamilj (p.16)
『たのしいムーミン一家』の扉に描かれたムーミン屋敷の間取図。上が一階で、下が二階。一階の間取は、中央にタイルストーヴのある応接間、そこから続くヴェランダ。応接間から右回りで、じゃこうねずみの部屋、トフスラとヴィフスラの部屋、浴室、かまど、台所、ヘムルの部屋、階段。二階の間取は、いちばん上がムーミンママの部屋、右回りで、ムーミンパパの部屋、スニフの部屋、客室、スノークの兄妹の部屋、スナフキンとムーミントロールの部屋、なんでも部屋。九冊のシリーズを通して、屋敷の間取図はこれひとつ、ほかにはない。
ムーミントロール Mumintroll (p.46)
母親っ子の甘えん坊。初期の作品ではなにかとムーミンママに頼るが、独立独歩のスナフキンに憧れてもいて、自分もいつかはあんなふうに生きてみたいと思っている。九冊のシリーズを通して成長していくプロセスが描かれる。気だてがよくて、めったに怒らないが、感受性がゆたかで、そのぶん傷つきやすい。
ムーミンパパ Muminpappa (p.74)
子どもっぽい。ちょっと無理をしても責任を引きうけたがるが、すぐ挫折してむくれる。手先の器用さが自慢。<家族の大黒柱>を標榜するわりに放浪癖があり、シリーズを通じて何度も失踪する。ムーミン谷にいるときは、ハンモックに寝そべって「回顧録」の構想を練るのが日課。
ムーミンママ Muminmamma (p.98)
どんなときにも慌てず騒がず、頼りになる。すばらしく楽天的で、たいていの困難は苦もなく乗りこえる。モノに愛着を感じても執着はしない。だれよりも自由な精神の持ち主かもしれない。すべてを受けいれ、すべてを丸く収めてきたママだが、寂しい孤島で暮らすうちに、生まれてはじめてエゴの葛藤をおぼえる。挿絵画家として家族の生計を支える一方、家族の世話も一手に引きうけていた作者の母シグネがモデル。
ちびのミイ Lilla My (p.114)
ミムラ族のなかで「いちばん小さく」、名前はギリシア文字のμ(小さいものの象徴)に由来する。作者によると「勇気があり、怒ることができ、ぜったいにへこたれず、前向きで、いつまでも大きくならない」。探求心旺盛、怖いもの知らず、単刀直入、ときとしてハードボイルド。シリーズを通して多少とも変わっていくほかの生きものたちとくらべて、ミイだけはほとんど変わらない。『ムーミンパパ海へ行く』ではなぜかムーミン家族の「養女」になっている。
スニフ Sniff (p.124)
第一作『小さなトロールと大きな洪水』では「小さな生きもの」として登場。のちの「スニフ」じゃ固有名。シリーズ前半に活躍するが、後半になると影をひそめる。臆病だが好奇心は旺盛。設定としてはムーミントロールよりも幼く、小柄で、子どもっぽく、しかも現実主義者。物欲が強く、とくに高価なモノに執着する。
スノークの女の子とスノーク Snorkfroken och Snork (p.134)
スノークの女の子は、コケティッシュでロマンティック、ときに直感的に賢明な行動をとる。かよわい女の子の振りをするが、窮地におちいるとがぜん勇敢になり、積極的な行動に出る。前髪と金のアンクレットが自慢。スノーク族は強い感情に動かされると肌の色が変わるが、それ以外はムーミントロール族に似ている。
スノークの女の子の兄は、『ムーミン谷の彗星』と『たのしいムーミン一家』にしか出てこない。スナフキンが言うには「整頓好きで説明好き」。理屈っぽくて仕切りたがるが、まとめ役の力量に欠ける。
フィリフヨンカ Filifjonka (p.144)
フィリフヨンカというと、たいていブルジョワの中年女性を連想するが、少数ながら男性(フィリフヨンク)もいる。たくさんの美しく由緒正しい品物に囲まれているが、身近な家族はなく、友達も少ない。極端なまでに掃除や整頓に情熱をそそぐ。好きでもない親戚づきあいをしようとしたり、祖母が住んでいたというだけで意にそわない家に住んだりして、伝統を忠実に守ろうとするあまり、ときどき爆発してアナーキーになる。
ヘムル Hemul (p.156)
定冠詞つきで「ヘムレン」となるため、日本語名では「ヘムル」または「ヘムレン」と不統一。スウェーデン語<ohemul>(不当な)から否定語<o>をとった造語か。無神経で独善的な面もあるが、人柄はよく憎めない。いくつかのタイプに大別できる。
1 音楽(主として管楽器やアコーディオン)やスポーツ好きの陽気なヘムル(『ムーミン谷の冬』)。自分が元気にしていれば、まわりも元気になると思いこんでいるが、迷惑がられることも少なくない。
2 収集癖のある学者ヘムル。昆虫や植物の採集、切手蒐集などに情熱を燃やす求道者タイプ(『ムーミン谷の彗星』)。
3 秩序と権威を重んじるヘムル。このタイプは天職に生きる。孤児院の経営者(『ムーミンパパの思い出』)、警察官や公園管理人(『ムーミン谷の夏まつり』)。
4 シリーズ後半に登場する内省的なヘムル。子どもたちのために静かな公園をつくる(『ムーミン谷の仲間たち』)、自分らしさを求めてムーミン谷をおとずれる(『ムーミン谷の十一月』)など、魅力的なヘムルも多い。
ニョロニョロ Hattifnatt (p.166)
スウェーデン語名は「ハッティフナット」または「ハティフナット」。<hatta>(優柔不断で迷う)と<fnatta>(放浪する)の合成語だろうか。姿を消したりひとの心を読んだりできるとの噂だが、真偽のほどはわからない。『ムーミン谷の夏まつり』によると、夏至祭のイヴに蒔かれた「ニョロニョロの種」から生まれ、どこまでも水平線をめざす永遠の放浪者。性別不詳。
モラン Marra (p.188)
スウェーデン語名は「モッラ」であるが、定冠詞がついて「モラン」となる。<morra>(モッラ=うなる)と音が似ているので命名されたのか。不毛で心を凍らせる孤独の象徴なのか。暖まろうとして近づくと火が消えてしまうのが、モランの不幸である。だれからも愛されず、だれも愛さないという意味で、怖ろしいというよりも哀れな存在。シリーズ後半においては、より複雑で深みのある生きものとして描かれる。
スナフキン Snusmumrik (p.206)
直訳すれば「嗅ぎ煙草をやる男」で、スウェーデン語名は「スヌスムムリク」。日本で流布している「スナフキン」は英語名の転用。自由と孤独を愛する詩人。ひとにもモノにも執着せず、秋になるとムーミン谷を去って、ひとりで旅に出る。大おばさんからもらったハーモニカと古ぼけた帽子をたいせつにしている。
トゥティッキ Tooticki (p.222)
種族名ではなく完全な固有名。作者の友人でグラフィック・デザイナーのトゥーリッキ・ピエティラがモデル。冬のムーミン谷でムーミントロールの導き手となる。スナフキンがまばゆい夏の太陽を讃える詩人だとすれば、トゥティッキは蒼白い冬の月と曖昧な闇の世界の秘密をうたう巫女だといえよう。スナフキンと同じように、ムーミントロールにとっては、一歩先をゆく年上の友だち。
スクルットおじさん Onkelskrutt (p.232)
たいそうな年よりらしいが、「自分の名も年もまんまと忘れてしまった」つわもの。年より扱いされると憤慨するが、そのくせ、ムーミン屋敷の戸棚のなかに住む「ご先祖さま」をライヴァル視する。『ムーミン谷の十一月』で、ムーミン家族のいないムーミン谷にふらりと現れて、ほかの客たちとかみあわない会話をくりひろげ、あげくにさっさと冬眠に入ってしまう。究極の自由人。
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